8月・9月の研究会のお知らせ

今月は、月例研究会がお休みになり、9月に二回開催いたしますので、ご注意ください。

日時   9月1日(水)13:00〜17:00
場所   蓮花寺佛教研究所

発表者  高橋秀城研究員、山野智恵研究員

日時   9月15日(水)13:00〜17:00
場所   蓮花寺佛教研究所

発表者  今井秀和氏(大東文化大学非常勤講師)

皆様のご参加おまちしております。

ハンブルグだより 文献学の方法と問題4

日本では、校訂テキストが資料として読まれ、使いやすさを基準に評価されることを、前回書きました。この資料としての「使いやすさ」という点から言うなら、ヨーロッパの校訂テキストほど、使いにくいものはありません。

ヨーロッパにおける「校訂」は、特に底本を定めず、諸写本のうちから、校訂者が、内容、文法、韻律等の上から、最も「妥当」であると思われる読みを確定していく、という方法が基本となります。底本を決め、これをもとに、他本との相違を註に記していく、東アジアの「校訂」作業に比して、校訂者の解釈が入る余地が高く、その分、校訂者の力量が問われることになります。そのため、ヨーロッパでは、校訂といった仕事が、個人の研究業績として高く評価される傾向があるのだと思います。

校訂テキストを作成するに際しては、ラテン語の略号記号を用いたアパラトゥス(apparatus)と呼ばれる形式の脚注を付していきます。底本を定めないので、まずは、自分の確定した読みを支持している写本のリストをあげ、次に、異なる読みを採用している写本のリストをあげます。

例)

    tathā]  L2 K2 4 6 9 11,   tena L1, tatho K1, om. K3

      ⇧                      ⇧                              ⇧

自分の読み   支持している写本    異なる読みの写本

こうした脚注の形式、一つをとっても、ヨーロッパのテキスト校訂が、より校訂者の主体的な「読み」を重視していることが、わかると思います。そのため、ヨーロッパの校訂テキストを、日本の感覚のままで、資料として用いることには、注意が必要になるといえます。

山野 智恵

小さいことはいいことだ

先日、日産の大型車、シーマが絶版となった。

バブル景気に涌いた日本。当時、3ナンバー専用ボディーのふれこみで登場した高級車が、不況にあえぐ日本には不似合いだったのかもしれない。あの頃、自動車はモデルチェンジのたびに、次第に車体が大きくなっていったものだった。車体の大きさがオーナーのステータスを雄弁に語るものだと信じていた。「大きいことはいいことだ」とは六〇年代のテレビCMのコピーだが、それは50円のチョコレートだけの話ではなかったのだ。我が国の価値観は長きに亙り、その延長線上に居続けた。

今や自動車も低燃費が美徳とされ、補助金の効果もあってか、ハイブリッド車をはじめとする小型車が自動車産業の牽引役になっている。これまでの大艦巨砲主義はすっかりなりをひそめ、その発想はぐるりと180度転換した。

この現象は果たして、単に不況に起因した消極的価値観というだけのことだろうか。考えてみれば、デジタル技術の席捲する昨今の一つの積極的価値観であるような気もする。携帯電話も30年ほど前には肩掛式の大上段なものだった。それが今や、手のひらサイズの携帯端末へと進化を遂げている。小型化、高機能化。今や、技術は密度の高さが要求されている。

人文科学に波及した効果としては、経典類のデータ化などがその一つに挙げられるだろう。我が研究所にも備えてあるが、四庫全書の電子化は、中国学を研究する者には大変に有為である。テキストの検索の利便性ということもあるが、なにより紙媒体からの開放は、驚異的なダウンサイジングを達成した。今やノートパソコンはネットブックという新しいジャンルを確立し、5万円も出せば閲覧に不便の無い機種が手に入る。

情報の公開、伝達の手段は、インターネットの登場により激変した。最近では更に、Apple社のiPadなどが更に起爆剤となりそうな予感であるが、紙媒体雑誌は次第に電子化の方向へシフトしつつある。紙媒体の出版には、どうしても莫大な初期投資を要する。その資金的問題を軽減するのが電子化の利点である。電子媒体だけでなく紙媒体の出版も、DTPの登場により、ずっと敷居が低くなっているのも事実だ。デジタル技術のダウンサイジング効果はデバイスのハード面だけでなく、それを活用する組織そのものへと波及している。

思えば、我が研究所の活動もデジタル技術の恩恵によるものだと言っても過言ではない。

先日も東京~ハンブルクのオンライン研究会を実施した。時差の存在はいかんともしがたいが、動画を中継しながらの研究会は通常の議論となんらかわりが無かった。一昔前なら、回線使用料だけで、尻込みするような技術だ。

ここまで技術的バックアップが得られるなら、残りは何だろう。我々の場合で言うなら、勿論、研究の質ということに収斂するはずだ。こればかりは、どうにも技術的に解決できることではない。裏を返せば、そこが人文科学の楽しみなのだ。

遠藤純一郎

ハンブルグだより 文献学の方法と問題3

写本の校訂といったような仕事は、日本では、研究の基礎作業として見なされ、それ自体で評価されることがあまりないようですが、ヨーロッパでは、研究業績として高く評価される傾向があるようです。

この評価の相違には、それなりの理由があります。これには、東アジアとヨーロッパの「校訂」作業の方法論の相違が起因しているように思われます。

東アジアにおける「校訂」作業は、まず底本を決め、これをもとに、他本との相違を註に記していく、という方法が基本となります。諸本との対校から、明らかな誤字が訂正されることがあっても、校訂者の解釈が入り込んでいるような校訂は、「使いにくい」テキストとして、あまり好まれません。

近年発刊された大蔵経に、中華大蔵経があります。これは12世紀に刻印された「趙城金蔵」を底本にしており、他の8種類の代表的な大蔵経を対校しています。底本といっても、大正蔵のように、校訂テキスト作成のための底本としたのではなく、「趙城金蔵」の影印版に、その他の版本の校異を末尾に箇条書きに付す体裁をとっています。大正蔵の時代には入手され得なかった版本を使用していること、また、校訂者の「読み」に起因する要素が極力排除されていることから、「使いやすい」テキストとして、研究者に参照される機会が増えてきているようです。

また、新資料の発見に際して、「翻刻」という体裁で資料が発表されるのも、東アジアの特徴ではないでしょうか。資料をそのまま活字にtranscriptする「翻刻」は、新資料を公にするという意味で高く評価されますが、逆にヨーロッパでは、transcriptionは研究の基礎作業として見做され、翻刻という形で資料が個人の研究業績として発表されることは、あまりないようです。

山野 智恵

7月の研究会のお知らせ

日時   7月27日(火)13:00〜17:00

場所   蓮花寺佛教研究所

発表者  遠藤祐介、小林崇仁

今月の研究会は、個人研究発表となります。イレギュラーの火曜日開催となっておりますので、ご注意下さい。皆様のご参加おまちしております。

ハンブルグだより 文献学の方法と問題2

日本で、学術フロンティアの古写経アーカイブのプロジェクトに一年弱参加し、漢語写本の扱い方、研究方法などを多少、聞きかじりましたが、同じ写本を扱うにしても、漢語文献とサンスクリット文献では、多くの相違点があるように思います。

その相違の一つとして、まず、文献自体の文化的性質に起因する違いがあげられます。一例をあげると、日本の古写経の場合、転写元となるテキストの行数、字数に合わせて、テキストを再生産する場合が多く、その写本の由来を知る上で、行数、字数などが重要な情報源となっています。日本人の几帳面さがよく現れているといえますが、インドの場合、私が扱っている範囲でいえば、インド人がそのような几帳面さを発揮している例はまずありません。

ところで、中国では、宋代より版本文化が発達し、それとともに、校注学が発達してきました。これに対して、サンスクリット写本は、近代に再生産されたものも多く、インドにおいては、つい最近まで、写本文化が主流であったことを物語っています。インドにおいて版本文化が発達しなかった理由を考えると、やはり、階級制度に結びついた知識伝達のあり方という問題があるように思えます。版本文化は、知識のすそ野の拡大とともに発展していきます。逆に、知識が限定的に伝達される場においては、印刷技術は必要とされません。

かくして、インドには、膨大な量の写本が残されることになりました。「校訂」というテキスト確定の作業を経ずに再生産された写本の世界では、テキストは流動的な性質を持っています。そこに「校訂」という作業の困難さが生じてきます。

山野 智恵

ハンブルグだより 文献学の方法と問題1

今学期より、ドイツ、ハンブルグ大学に滞在しています。

ドイツでの研究活動の報告をかね、現在、私が従事しているサンスクリット文献学の位置と意義について考えてみたいと思います。

私たちの研究分野、人文研究の中では、文化遺産としての文献をアーカイブする「仕事」に、比較的予算がおりやすいことが相まって、現在、微小ながらも文献学の地位が高まってきているように見えます。こうした仕事は、人文研究の中でも、一般の人(要は役所の人間のことですが)に結果がみえやすく、またアーカイブされたものは「財産(property)」として認識されやすいため、人文研究が衰退していく中、多くの機関でこうしたアーカイブ作業に着手し、予算を獲得しようとする動きが、世界的に広まってきているようです。

ハンブルグ大学のアジア・アフリカ研究所においても、各部門において写本研究のプロジェクトが進められており、プロジェクトの一環として、インド学の分野においても写本学の講座が開かれています。

この「ハンブルグだより」では、ドイツで学んでいるヨーロッパの文献学を、東アジアの文献学との比較から紹介しつつ、広く「文献学」の意義を議論するための話題を提供していきたいと考えています。

山野 智恵

6月の研究会のお知らせ

日時   6月16日(水)13:00〜17:00

場所   蓮花寺佛教研究所

発表者  遠藤純一郎

今月の研究会は、個人研究発表となります。皆様のご参加おまちしております。

5月の研究会のお知らせ

日時   5月19日(水)13:00〜17:00

場所   蓮花寺佛教研究所

発表者  高橋秀城、山野智恵

今月の研究会は、個人研究発表となります。皆様のご参加おまちしております。

4月の研究会のお知らせ

日時   4月21日(水)13:00〜17:00

場所   蓮花寺佛教研究所

発表者  遠藤祐介、小林崇仁
今月の研究会は、個人研究発表となります。皆様のご参加おまちしております。

Rengeji Institute for Buddhist Studies