能満寺学術振興大賞 受賞者発表

「仏教と現代社会」懸賞論文に多数のご応募を賜り、誠にありがとうございました。「能満寺学術振興大賞」は,龍虎山能滿寺(栃木県宇都宮市)の後援により、若手研究者の学術活動支援を目指して企画されました。第一回目の「能満寺学術振興大賞」には、厳正なる選考の結果、明治大学非常勤講師・伊勢弘志氏の「仏教と現代社会 ─近代日蓮主義を事例とする「顛倒の論理」の考察─」が選ばれました。

能満寺学術振興大賞 受賞論文

 

伊勢弘志

「仏教と現代社会 ─近代日蓮主義を事例とする「顛倒の論理」の考察─」

 

概要

 本論文は、日本近現代史の立場より、田中智学らによる近代日蓮主義運動を分析したものである。
 伊勢氏は、まず、この運動を日蓮宗内部でおこった近代化運動の流れの中に位置づけ、次いで、日露戦争時のナショナリズムの高揚の中で、田中智学が『日本書紀』の建国神話と日蓮主義を融合した独自の国体論を展開していった過程を分析している。そして、田中智学によって創設された国柱会が活動の場を拡げていったその状況と理由を考察し、法華主義の排他性と攻撃性が対外危機による社会不安や憤懣の感情に呼応したこと、あるいは日蓮主義の「此岸救済」が理想社会の実現を目指す運動に正統性を与えたことなどを指摘している。
 さらに伊勢氏は、社会不満の転化は日蓮信仰に特有の傾向ではあるが、社会認知を広めるために厄災を契機にしたり、教義を読み替えて国家や社会の関心に接近することは、近代日蓮主義運動に限られたものではないとし、こうした社会行動を支える論理を「顛倒の論理」として一般化している。この「顛倒の論理」では、自明の結果に導くために、好事例のみを抽出して、後付け的に理由や大義を与えることが行われる。日本近代の諸宗教は、国家による弾圧回避や、信者の獲得などのために、この「顛倒の論理」を用いて、時には本来の教義から逸脱しながら、社会化を進めてきたが、これが恒常化すると、その思想運動としての省察は失われ、真理の探究に踏み出す以前に結論が押し付けられるだけの対話しか生み出さなくなると、伊勢氏は警告する。しかしながら、仏教の教義の一部はその問題の克服に寄与する可能性を含んでいると指摘し、この考察を閉じている。

受賞理由

 近代以降の仏教の社会化の過程について、事例研究に基づいた着実な方法によりつつ、社会史からの観点のみならず、仏教の教義内容に立ち入りながら分析を加えている点に、伊勢氏の意欲が感じられる。「仏教と現代社会」という課題においては、「共生」や「エンゲージド・ブッディズム」などのテーマがとりあげられる傾向があるが、伊勢氏の論文は、こうしたテーマ設定自体に潜む問題点を浮き彫りにしており、その点を高く評価した。また、伊勢氏の問題設定には世界の宗教間や、信者と非信者との間のディスコミュニケーションといった課題との接続性も見られ、仏教と現代社会を考える上で発展性の有る問題を内包している点も評価の対象となった。以上、着実な方法による分析と今後の発展の可能性に鑑みて、本論文を大賞にふさわしいものと判断した。

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